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一連の事故について-1 [ブログ紹介]

興味深い時事評論でしたので、トラックバックさせていただきました。当記事は「明日を拓く」の”俺”さんの力の入った記事です。作者名をうっかり抜かしていました。遅ればせながらお詫びします。

福知山線事故から我々が学ばなければならないこと
今回のJR福知山線事故において我々が教訓として学ばなければならないのは、その悲惨な事件が起きた背景である。
無論、「置き石がどうの」「ATSがどうの」という話は専門家に任せておけば良い。素人が「車体が軽量化で云々」と言うのはお門違いである。また、運転士なりJR西日本なり誰か悪者を指弾して解決するという話でもなかろう。
今回の事故の背後に存在する最大の問題は、コンプライアンス(=法令遵守)であるように思う。
今回の事故はコンプライアンス社会というものが持つ最大の汚点を象徴する出来事に他ならない。誰か一人のミスとか機械の不具合とかは偶発的なものだが、根幹にある問題は偶発的なものとは思えない。極論として述べるが、この事件は起こるべくして起こったと思うし、コンプライアンス社会が秘かに生じさせた「歪み」を象徴しているよう思える。
様々な報道の取材、人の話から総合的に判断すると、このJR西日本という会社には過酷なまでのルール遵守主義が存在し、ノルマ・罰則等により社員を縛り、コンプライアンスを促進していたようだ。それはひとえに「お客様から信頼を得る」ための努力の表れである。今世紀に入りわが国は、「遊び」を失ったように思う。年金未納に汚職に…と、一方には倫理観を喪失した人間の悪態が報じられ、その反動としての過剰なまでのチクり、監視、揚げ足取りが日常化している。年金未納についても、意図的な未納なら兎も角、制度上の不備だったりたまたま忘れていたりして未納だった議員をマスコミは次々と指弾し、有力な政治家がそれ故に役職を退いたりした。
企業においても、不祥事が相次いだり不透明性が指摘され、ともすれば揚げ足取り的とも言えるクレーム社会が蔓延している。腐敗した体質が次々と浮き彫りになれば、当然その反動として監視の目がオーバーなまでに厳しくなるのは致し方ない。
こうした中で、企業では「法令遵守」、いわゆる「コンプライアンス」が叫ばれるようになった。それは、今まで以上にチェック項目を増やしたり、多少大目に見ていた日本人の伝統的性質とも言える「曖昧さ」を徹底排除し、法・ルールで社員の行動を徹底束縛することになった。
無論、「きちんとした倫理観に則り、ルールを守りましょう」というのは分かるし、当然のことである。しかし、それにより働く者たちの中には「何が何でもルール、でゆとりがなくなった」「窮屈だ」という閉塞感が生じ、労働意欲の低下につながってゆく。
そして、その閉塞感からの反動として、「ルールさえ守っていれば何をしても良い」「見つかりさえしなければルールを破っても大丈夫」という発想が生まれる。何とかして法の抜け穴を探したり、見てない所では平気で悪事を働き…と、人間本来が内在させていなければならない倫理観、価値判断基準を見失い、自己を律することができなくなってしまうのだ。
今回福地山線で事故を起こした運転士も、直前の駅でオーバーランというミスをやらかしている。これは、停車しなければならない駅で停止線を越え行き過ぎてホームからはみ出してしまうことだが、なんと40m=車両2両分も行き過ぎていて、そのためバックしたのでその分遅延が生じ、焦って出発し速度を上げ過ぎる事態につながったと見られている。
そしてこの運転手は、罰則を恐れるため車掌と口裏を合わせて、社内規定に引っかからない「8m」しか行き過ぎていないとし、虚偽報告を試みた。ここに、「誰も見てないしバレやしない」という「コンプライアンスの反動」が見て取れる。
しかし、悪いのはそれだけではない。何故運転士はそのようにウソの報告を試みたか。その原因の根幹にあるのは、会社の体制である。
JR西日本は、過剰なまでにコンプライアンスを推し進め、「○分遅れたら罰則」「昇進にも影響」といった制度を設けて社員を律しようとしていたらしい。元々は客からのクレームがあってか、「定刻運行に努めてお客様に貢献しよう」という考えの下行われたルールなのだろう。しかし、それ故に現場の運転士・車掌達はそれまで以上に定刻運行に気を遣わなければならなくなり、ちょっとの遅れも許されない状況で、それによる拘束とプレッシャーに悩まされてしまった。この状況下で、社員のやる気が今まで通り維持できるだろうか。
追い込まれ、追い込まれて本来しない筈の行動に出てしまい、結果このような大惨事を引き起こしてしまった…そう考えられないだろうか。とすれば、原因は自ずと明らかになる。(無論、物理的・技術的な原因ではなく。)


誰にでも、どんな状況下でも、余裕は失ってはならない。
言うまでもなく腐敗大勢を野放しにしておいてはならないし、ぬるま湯に浸かっている環境は外部からのメスを入れなければならない。
しかし、その対策としてコンプライアンスを推し進めていくことには、非常なる危機感を感じる。これは、予てより批判を続けている「マニュアル一辺倒」にも通ずる話だ。「何が何でもルール遵守が絶対」「抜け目なく監視」という抑圧は、一見すると社員の室を向上させているように思えるし、だから未だに多くの企業・団体が疑うことなく導入しているのだが、これは間違っていると断言せざるをえない。一見皆がルールを守って清く正しく働いているように見えるかもしれないが、そこには閉塞感からのモチベーション低下と、個々の倫理観の喪失を招く。つまり、コンプライアンスの推進は、ロボットに命令を入力している作業に他ならない。よく考えてほしい。我々は機械ではない。それぞれ心を持ち、内在する倫理観をもって自己の行動の善し悪しを判断、実行していくのだ。それが人間だ。人間が心を失い、内部の律を喪失し律を外部のマニュアルにのみ頼ると、誰にでもどんな状況にでも同じ対応しかしないマニュアル人間が生まれたり、ルールさえ守っていれば何をしても良い、と、ルールに書かれていないことなら悪いと思っても断罪されないからと平気で行ったり、バレなきゃ何をしてもいい、と「悪いことをしても胸が痛まない人間」になってしまう。
今必要なのは何か。それは、臨機応変に対応する自己判断能力であり、ゆとりであり(教育における「ゆとり」を差すのではない)、「遊び」の部分だ。
皆さんはご存知だろうか。どんな線路にも、必ず「遊び」がある。「遊び」のない線路など存在しない。
え?と思うだろうか。「つなぎ目がきちんとくっついてなきゃ、隙間ができて脱線しちゃうよ」と。
勿論、脱線しないようなつくりにはなっている(専門的な話はここでは避ける)。でも、考えてほしい。この国の、この場所の、毎日。1年365日、暑い日もあれば吹雪の日もあり、風が吹いたり、乾燥したり…線路は鉄だから、気温が上昇すれば膨張するし、下降すれば縮む。もしつなぎ目をぴったりつなげていたら、猛暑で線路が膨張した時、破裂してしまう。それを防ぐために、「遊び」がある。
人間も同じだ。「遊び」というか、心に余裕を持っていないと、いつか破裂してしまう。「窮鼠猫を噛む」と言うが、常に365日追い込まれてたら、さすがに噛む体力はなくなる。
この運転士氏は、素直にオーバーランという自分が引き起こした結果を受け止めるべきであった。そして、その失敗を取り返そうとする気持ちは理解できなくもないが、「その場しのぎの取り返し」という手段を選択した点において、評価することはできない。
きちんと自分が失敗した分だけ遅れて伊丹駅に到着し、きちんと罰則を受けて「二度とオーバーランしないように、もう一度謹慎して一から研修しなおします」くらいの事は上司に言わなければならなかった。そのくらいの気持ちがない人間は、人の命を預かる仕事に就いてはならない。
と言っても、コンプライアンスの重圧の中においては、こんなことを考えるゆとりもなかろう。会社の責任も大きい。
我が母校の先輩、ダイエー次期CEOの林文子氏は、「従業員のやる気を出させる」ことを改革の一つに掲げている。無論そこに「コンプライアンス」など一言も登場しない。彼女は販売員時代、厳しいノルマを課されて車を売り歩いたのではない。お客の立場に立って、時に会社に不利な情報も含めて丁寧に対話を重ねていったから、顧客の信頼を獲得し、前人未到のセールス記録を打ち立てたのだ。これは紛れもない事実である。その林さんが、コンプライアンスなど無視し、「トップダウンをやめて店長の決定権を強化する」「従業員がやる気を出せる職場作りを」「省エネのために照明を落として経費削減するんじゃなくて、お客が商品をじっくり見て買い物を楽しめるために、照明を明るくする」といった案を次々と生み出している(※)。
今わが国が選ぶ道は、「遊び」だ。そう信じている。


※上記、林文子氏のダイエー再建案は全て、今月25日(月)にテレビ東京系列「オープニング・ベル」に出演した際語っていた話である。



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こんばんは^^
 このご意見はどなたからのトラックバックでしょう・・・?
 限られた時間の中でこれだけの意見を述べられるのは大変だとは思いますが、しかし限られた時間だからこそ、誤解を招かないようにすることはわたくしには出来ないです。曽野綾子さんが、テレビの対談番組に出るのを極力避けておいでになります。それはやはり短い時間では自分の意見を理解してもらうのが難しいからだと言うような事をおっしゃっていました。
この方の仰っていることのおそらく半分はそうだろうと思うし半分は違うのではないかと思います。
by (2006-05-22 18:43) 

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